すると、ポールとアーティの関係が悪化してきた。前述したように、それは、アーティの『キャッチ=22/Catch 22』の撮影が、『Bridge Over Troubled Water/明日に架ける橋』のレコーディングを遅らせてしまった時に始まった。ポールは、アルバムのための曲作りを全て終わらせてしまうと、せっかちになるタイプである。すぐにスタジオ入りしたいのだ。アーティが『キャッチ=22』の役を承諾したのは、もっぱら時間をつぶすためだった。ただ、彼はマイク・ニコルズが映画を撮影し終わるまでに1年間もかけるとは予想していなかった。ニコルズの当初の見積もりでは2・3ヶ月だった。しかし、一度映画に入ると、抜けれないものだ。金の問題ではなかった。アーティの『キャッチ=22』のギャラは7万5千ドルほどだった。『Bridge』で彼は約100万ドル稼ぎだした。しかし、アーティはメキシコの撮影現場を離れられず、ポールはかなり重荷に感じていた。しかも、アルバム制作のペースは酷く遅く、多大なチームワークを要求するものだった。1曲レコーディングするたびに、それでいいかどうか「一緒に」決めるのだ。この作業が上手く行くためには、二人の音楽の好みがぴったり合っていなければならない。このことが、二人の間で大きな問題となっていた。アーティの映画撮影への苛立ちと、自分が作った曲をもっと独占的にコントロールしたいという気持ちの間のはざまで、ポールは、解散すべきだと心を決めた。