【3】 1968年のライブ 〜 Voices Of Intelligent Descent - Live At The Hollywood Bowl 1968/8/23
   本文: さとう氏 
http://plaza12.mbn.or.jp/%7Esatom/sg.htm

 


  
Voices of Intelligent Dissent
[Vigotone 124]


 


【曲 目】
1. Mrs Robinson
2. Homeward Bound
3. April Come She Will
4. Fakin' It
5. Overs
6. The 59th Street Bridge Song ( Feelin' Groovy )
7. America
8. A Most Peculiar Man
9. I Am a Rock
10. At the Zoo
11. Scarborough Fair/Canticle
12. Bye Bye Love




13. Cloudy
14. Punky's Dilemma
15. Benedictus
16. The Dangling Conversation
17. For Emily, Whenever I May Find Her
18. A Poem On the Underground Wall
19. Anji
20. The Sound of Silence
21. Richard Cory
22. Old Friends / Bookends
23. He Was My Brother

 

1968年8月23日、ハリウッド・ボウルで行われた全23曲が収録されている。

 これぞサイモン&ガーファンクル、最盛期の二人を知るには一押しのCDである。そして、ポールのギター、二人のハーモニーをコピーするには格好の教則本でもある。

 1968年には、かつてパパス&ママスの前座として活躍していた若者二人は今やワンステージのギャラ5万ドル(当時)を稼ぐまでに成長していた。

 この年の3月、S&Gが音楽の大半を担当した映画「卒業(The Graduate)」のサウンド・トラック・アルバムが発売され(全米第1位、計9週)、そしてつづく4月、S&G第4作となるアルバム「ブックエンド(Bookends)」(全米第1位、計7週)が発売されている。  

 オープニングは、 「ミセス・ロビンソン(Mrs.Robinson)」 。この曲からのスタートは、後のセントラル・パークにおける二人のコンサートにも見られるように、この頃から多くのコンサートで定着する。

 ロビンソン夫人の情事、生活に疲れた中年夫婦、近所のとても変わった人、アメリカを旅するカップル、実業家リチャード・コリー・・・、聖書の登場人物のように様々な人間像がステージを交錯する。
 アルバム 「ブックエンド(Bookends)」 のコンセプトそのままに、コンサート全体がひとつの組曲で構成されている。  " Inomine , Domini ・・・ " 、そして " Ten thousand people,may be more , People talking without speaking , People hearing without listening ・・
 コンサートの聴衆に対する符丁なのかも知れないとも思う。
 そして、そのステージに立つS&Gはあるいは預言者だったのではないかとふと考える。

 「アメリカ(America)」に入ろうとするところ。
 " How's the sound ? Any better ? (音の方は大丈夫かな)" とポール。
 聴衆から何か声がかかる。周囲のどよめき。カズー(笛)の音。
 " Voices of Intelligent Dissent. (知的な異議の声) " とポール。聴衆は大うけ。
 このCDのタイトルは、ポールのこのMCから付けられたものであるが、この " Intelligent Dissent " は、ラッセル (*1)の著作である " A Liberal Decalogue " (*2) からの一節を引用したものと思われる。

 このステージでも、ポールのギター1本をバックにした二人のハーモニーが、コンサート会場の壮大な闇の空間を包み込んでいく。

 アルバムが次々に発表されレパートリーが増えてきたこともあり、多くの曲をこなす必要からか、これまでのような曲の合間の小話は少なくなり、主なMCは曲やアルバム作りの簡単な紹介にとどまっている。また、彼らのルーツと言われるエバリー・ブラザーズの「バイ・バイ・ラブ(Bye Bye Love)」が、この頃からステージでカバーされている。

 「スカボロー・フェア(Scarborough Fair)」 のギターが奏でる不協和音は宝石が零れ落ちるような緊迫感にあふれている。

 「オーバーズ(Overs)」、「クラウディ(Cloudy)」、「パンキーのジレンマ(Punky's Dilemma)」などスタジオ録音に近いアレンジには好感が持てる。

 そして何よりも 「オーバーズ」 、「アメリカ」などに見られるアートのボーカルの美しさ。全盛期を迎えたアートの凄さを改めて認識する。

 次は何の曲だろうと思っていると、ポールがギターで ローリング・ストーンズの 「サティスファクション(Satisfaction)」 のイントロの部分だけを弾き始めるというサービスも。

 コンサート・エンジニアは、アートが紹介するようにアル・クーパー 。

 録音としては、1曲目 「ミセス・ロビンソン」 冒頭の音割れ、12弦ギターの音のバランス、時折発生するハウリング、拍子抜けのリバーブ処理など一部気になるところがあるものの、二人のハーモニーやポールのギターそれぞれの音の分解能、定位、音の広がりなどの音質面から、多くのブートレッグの中、総合評価としてAランクをつけたい。恐らく当日、コンサートホール用に調整した音を録音したマスターテープからのブートレッグ化であろう。本来であれば中域周波数を少し押え、うまくチューニングして最高のライブ・アルバムに仕立て上げたいところである。

(さとう)

  参考
*1 : ラッセル ( Bertrand Arthur William Russell 1872〜1970 ) イギリスの哲学者にして数学者。ノーベル文学賞受賞者。
*2 : 1951年の著作 " The Autobiography of Bertrand Russell - バートランド・ラッセル自叙伝 " の " A Liberal Decalogue " の一節、 " Find more pleasure in intelligent dissent ・・・(以下略) ・・・知的な異議の中に多くの喜びを捜し求めなさい " から。
 
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