■はじめに


この「入門」では、サイモン&ガーファンクル(以下S&G)についてごく基本的な事実を整理することと、そして今後このHPにおいて展開される予定の、「レコード」「ライヴ」「音楽性」「歌詞」「ギター演奏」といった多岐にわたるテーマの枠組を用意することをめざしています。 そもそもなぜそんなことをめざすのか、という話から聞いていただきましょう。

この「二代目S&G会議室」は、1997(平成9)年に「とらさん」によって開設されたS&Gファンのための情報交換フォーラム、先代「S&G会議室」を引き継いで、2000(平成12)年につくられました。ところが2代目管理人である筆者、こうもりは、S&Gファンとしては年季も浅く(後述する「'81CP」世代に属する)、レコードコレクションもS&GとPaul Simonのオリジナルアルバムのみといったありさまで、S&Gについて語るべきなにものも持ち合わせていませんでした。

会議室はネット上での情報交換だけでなく、各地で不定期にオフライン・ミーティング(オフ会)を開いて直接的なコミュニケーションをとっていますが、そこでの管理人の役割は、日付けを決め、場所をとって参加者を集めたあとは、ひたすらみんなの話を聴くだけという状態でした。S&GにわずかですがBootlegが存在することも、オフ会で初めて知ったくらいです。そんなわけで以前は2代目会議室に概説的なコンテンツを置くことなど望むべくもありませんでした。それを今回、ようやく造り始めた、というのがひとつめの理由、というか、事情です。

しかしそうやって造り始めるコンテンツの中身をどういうものにすべきか、という問題があります。

オフ会でのいろいろな方との交流を通じて、「みんなおんなじS&Gファン」というひとくくりではまとまりきらない、好みの多様性とか、世代間の断絶とか、そういうものがいろいろとある、ということを、足架け4年にわたりオフ会幹事をやり、各地のオフ会に顔を出すなかで、筆者はずっと意識してきました。

オフ会の会話の中で、たとえば若いファンがアルバム「明日に架ける橋」を聴くときに、「『明日に架ける橋』と『コンドルは飛んでゆく』を飛ばして聴くことがある」というと、70年代からのファンは当然憤慨します。とくに90年代のポール・サイモンが入り口になった若いファンにとっては、当初「Homeward Bound」は「カントリー・ロードみたいな古い曲」と聞こえるでしょうし、「明日に架ける橋」は「これって喫茶店のBGM?」みたいなとらえかたをせざるを得ませんが、それは70年代からのファンにとっては噴飯ものの認識といわざるを得ません。

逆にS&Gからの連続でポール・サイモンを聴いたファンは、「Paul Simon」で狂喜し、「時の流れに」までついていって、「One Trick Pony」と「Hearts And Bones」で徐々に落ちこぼれ、「グレイスランド」で振り切られてしまい、遠い目で「最近のポールは変わってしまった・・・」とつぶやく方も多くいらっしゃいます。90年代のポールが、大編成のリズムセクションをひきつれて、お祭り騒ぎのようなステージを見せると、こうしたファンの一部はまったくついてゆけない、というようなことがおこりますが、これは逆に、若いファンにしてみると「オイシイところについていってない」というように感じられると思います。

しかしオフ会での交流を通じて、若いファンは、オールド・ファンがそのシングルレコードを新譜で購入したときの興奮を話に聞くなかで、「明日に架ける橋」が、すでにあまりにもありふれた取り扱いを受けていたためにその良さがわかっていなかった、ということを理解しますし、オールド・ファンは若いファン達が「グレイスランド」におけるレイ・ピリのギターラインをコピーして狂喜するのを眺めつつ、自分がポールを嫌いになったわけではなく、ついて行けなくてちょっと寂しかっただけなのだ、ということを自覚して、「グレイスランド」以降を聴きなおすようになります。結果、異なる世代のファンは共通の基盤を持って、お互いを理解することができるようになるものなのです。

問題はこうした「世代間の和解」が、インターネット上のコミュニケーションだけではなかなか達成できないものだ、という点にあります。ネット上のコミュニケーションは、日常のそれ以上に、送り手も受け手も説明不足による誤解の危険を回避できないのです。

この問題を多少なりとも緩和し、会議室上のコミュニケーションを円滑にするために、お互いの立脚点の相違を全体像の中でざっと理解できるようなコンテンツを、会議室の入り口に置いておく必要がある、と筆者は思います。

さらに、日本人ファンの交流の場であるこの会議室においては、S&G自身の事歴について知ることに先だって、日本のS&Gファンとはどういうものかを知っておくことが必要だと考えます。それによって、ネット上のコミュニケーションにつきものの無用の摩擦や誤解、無自覚な非礼を未全に防ぐことができますし、またそれらを不必要に恐れ、腫れ物に触るようにふるまうことも、避けることができます。たとえば「映画『卒業』からのファンです」と名乗ることで、同世代の友人もできやすくなるでしょう。

したがって本篇では、はじめに日本のS&Gファンについて、大きく世代ごとに分類を試みることにします。これはおそらく、筆者がここで書くべきテーマの中で、最もふさわしいものだと思います。

その次に、S&Gのオリジナルアルバムを時系列でレビューし、その後彼らのレコードセールス、受賞歴などを追い、プライベートやレコーディングのエピソード、たとえば学芸会の「不思議の国のアリス」で共演したことがきっかけで二人が友達になったとか、「Cuba Si, Nixson No」は「リズムがダサくてお蔵入りした」とロイ・ハリーが言っているとか、そういうことまでフォローすれば、ファンの教養としては十分でしょう。

しかし、筆者の今後の計画としては、そういった事柄をすべて自分の手でコンテンツ化するのではなく、会議室の常連さんたちに少しづつ手伝ってもらおうと思っています。すでに何人かの常連さんに、それぞれ全く別のテーマで原稿をお願いしていますので、これからすこしづつ、発表していけると思います。

現時点では依頼者である筆者の容量不足から原稿をお願いできていない方や、ある程度方向性が見えてから詳しいお話をお願いしたいと思っている方がおります。そうした皆さんへは、今後突然、執筆依頼のメールが届くかもしれませんが、その節はどうぞお引き受けくださるよう、よろしくお願いします。

(2002/08/23 こうもり)

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