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第一部の残りです。ロイの話の熱っぽさに、訳していて疲れました(笑)
スクレイパーの実験とかやっていたら、無駄に遅くなってしまいました(苦笑)
ボクサーの録音プロセスが、かなり詳細に出てきますが、できる限り正確に訳したつもりです。このくだりは、誰よりも『ボクサー』のレコードを愛するイッシーさんに、お届けしたいです。
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ロイ:
たとえば『我が子の命を救いたまえ』の壮大なコーラスだが、スピードをすこし変えた2台のテープマシンを使って反響室でフランジャー効果をつけたものだ。こうやって奥行きのあるサウンドをつくったんだ。いつも基本的にやっていたのは、ほんのすこしディレイをかけることだった。(2台のテープマシンを数ミリ〜数十ミリ秒ずらして再生したと思われる:訳注)
『動物園にて』では、スクレイパーの音に個性を出すために、反響室でフランジャー効果をつけたんだ。モノラルの反響室からの出力を2台のテープに録音して、1台のスピードを上げたり下げたりしてゆらぎをつけた。いまでいうマニピュレーションだけど、当時我々は電子的な加工を使わずに実現していたんだ。
(スクレイパーは金網状の筒をブラシでこする楽器。『動物園にて』の13秒付近で登場する「しゅいーん」という音がそれで、たしかにリバーブとフランジャーがかかってます。実際におろし金と泡立て器でやってみました(爆)サウンド編集ソフトをお持ちの方はやってみましょう!先に強めのリバーブをかけてからフランジャーをかけるだけで、かなりそっくりになります。:訳者白)
私がかつて手がけた中で技術的に最高のレコードの話だが、それについては今でも、誰がなんと言おうと、音響的にも、またあらゆる面についても満足している。
それが『ボクサー』だ。とほうもないレコードだよ。このレコードについて話すのが何より楽しいんだ。ポールと私と、二人で作った。正気と思えないような沢山の音が詰め込まれている。
あなたはAMSのリバーブの話をしていたね?あのサウンドはそういう効果がいたるところに使われている。ただし反響室を開けたり閉めたり調整しながら、感性と手作業でやったものだ。機械にはできないことだよ。ベースハーモニカまで入っている。あれが8トラックを使ったレコーディングだとはね。
マイケル:
8トラック1台ですか?2台を同期させたのではなく?
ロイ:
それはいろんな音声を全部レコードに収める仕上げの段階でやったことだ。私には16トラック必要だった。私は最初の8トラックをヘッドホン端子から2台目の8トラックに移すことを思いついた。私の発案だよ。(自慢らしい・・・:訳者白)そうやって最初の8トラックをすぐに別の録音に使った。
そのとき私はエンディングの壮大なコーラスのアイデアを思いついた。アーティが「いいね、それをコロンビア大学のチャペルで歌えたらいいな。」と。アーティはコロンビア大に通っていたからね。(在学中にそのチャペルで歌ったことがあって、響きがいいので気に入っていたんでしょうね。チャペルで響きを確かめながら鼻歌を歌うアーティ・・・目に浮かぶようです。:訳者白)
それから我々はドルビーとリモコンつきの8トラックをどうやって手に入れるか相談していた。それまで使ったことのないものだった。CBSは「それは本当に必要なものなのか?」と言っていた。
マイケル:
そしてスタジオから外に出かけて、マイクをセットしたんですね?
ロイ:
その通り!(スタジオで)ボーカルを録って、チューバを録って、先に録音していたスチール・ギターに風変わりな味付けをしようと、メロディーにピッコロ・トランペットを重ねて録音した。さてこれから教会で録音だが、ステレオではできなかった。トラックが足りなかったから、モノラルでやったんだ。(残りトラックがあとひとつだったということか:訳注)そうやって出かけていって、ポールとアーティで「ライ・ラ・ライ・・・」と歌うのを重ね録りしたんだ。
マイケル:
それにあの「だぁーん」という爆音のドラムがありましたね?
ロイ:
そう、あれはコロンビアのエレベータ・シャフトでやった。
で、教会へ行って、ドルビーをかけたコーラスを録ったら、もうトラックがなくなってしまった・・。(やはりひとつしか残っていなかった!:訳注)それで、それからストリングスの録音に取り掛かったが、2トラックで録音して、最終ミックスのときにワイルド・トラック(非同期。2台のテープ装置を手動でシンクロさせる。:訳注)で収めることにした。
マイケル:
他の機械と音を合わせるために、ピッチ・コントロールをたくさん操作しなければならなかったでしょう?
ロイ:
もちろんやったさ。それだけじゃない。ドブロ・リック・ギターもいれた。あれもワイルド・トラックだった。(ミックスとカットに)ずいぶん時間がかかったよ。しかし技術的には見ものさ!基本のトラックは、ナッシュビルで、フレッド・カーターとポールのトラヴィス・ピッキングだけの、素晴らしい演奏から始まった。そしてあの偉大なドラマー、バディ・ハーモンがシェーカーを加えた。それで最初の8トラックはできあがりで、新しい8トラックに取り掛かった。
(ハーモンはナッシュビルのセッション・ミュージシャンの中でも「Aチーム」と呼ばれた高名なドラマー。もちろんエルヴィスとも仕事している。彼が演奏したのはパーカッション?CDではシェーカーは聴こえない。:訳注)
ミキシングを終えて、いよいよ出来上がった2台の8トラックのAmpexと、2台のワイルド・トラックの仕上げに取り掛かった。「神様、どうか全てをシンクロさせてください!」と祈ったよ。装置が加熱すると、テープが滑ってしまう恐れがあったんだ。しかし無事にシンクロしてくれた・・・。
同じやり方をザ・バーズのレコードでもやった。同じ装置をハリウッドの、プロデューサのゲイリー・アッシャーのところに持っていたら、彼は目を回していたよ。
しかしこれには噴飯ものの裏話がある。コロンビア以外のレーベルでは、みんな16トラックを使っていたんだ!16トラックがないばっかりに、こんなにハッスルしなきゃいけなかった。でも分かってはいたんだ。コロンビアにはスタジオがたくさんあったから、16トラックを配置するには金がかかりすぎたということだ。
ミックスダウンをやったときは、アーティは映画をやっていて不在だった。それがサイモン&ガーファンクルの終焉のきっかけだった。ポールと私はスタジオでミックスダウンに取り掛かった。前の晩には娘が生まれて、一晩中眠っていなかったのに、私はすごく元気だった。作業には12時間もかかって、すべてを調整してから壮大なエンディングとストリングスのワイルド・トラックをミックスしたんだ。もし今これをやらなければいけないとしても、誰にもできないよ。もちろん自分にも、2度とできないさ!
<第一部 完>
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