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28日のステージ後は、出待ちするファンの人数も多くて、通りかかるミュージシャンも終始にこやかな表情でした。
この日のステージでは、最後のLate In The Eveningのイントロでマーク・スチュアートのギターの音が出ず、ポールが復旧を待ってイントロを引き伸ばしたへんな始まり方をしたんです。
それで、出待ちのとき、マークにサインを求めつつ、
「あなたのギターにトラブルがありましたね?」と聞くと、
「そうなんだよー!最後の曲で音が出なかった!」
くやしそうに苦笑いしていました。
そのあと30分くらい、山本さん、ワシントンのポール、ポールの友人のロイと私でマニアックなファン談義をしていました。
「ポールのD-18はTom&Jerryの印税で買ったに違いない、と日本のファンの友人が推測していますがどう思いますか?」
「しかしポールのD-18は一台ではないのでは?」
「それはペグを交換しているんです。彼はD-18のペグをオリジナルから、クルーソンの白ボタン、クルーソンのレスポールタイプ、グローバー・インペリアルと、3回交換しています。」
出待ちが終わって誰もいなくなったBAMの横で、リマスター版のアウトテイク音源にはいっていたソフト・パラシュートを歌ったりして盛り上がっていると、バキチが戻ってきました。
「ヒロシ!誰を待ってるの?」
「バキーチ!あなたを待っていたんですよ」
「みんなあそこのバーで飲んでるから、行ってみろよ。俺は衣装を取りに楽屋に行かなきゃ行けないから、先に行ってろよ」
バキチは楽屋へ行ってしまいましたが、我々だけで行っても入れてくれるはずがないと思い、みんなで相談して、やはりバキチに連れて行ってもらおうということに。
かれはすぐ戻ってきて、
「なんだまだいたのか。すぐそこのバーだから、行こう、行こう!」
と、我々を連れて行ってくれました。
中に入ると、ミュージシャンやスタッフでごった返していました。ポールは奥の部屋にいるようです。BAMのIDをつけたセキュリティらしきごついおっさんが、セレブーな人々のなかに紛れ込んだ庶民4名に目を光らせています(笑)10分ほど、4人でなにもできずに固まっていました(笑)
そのうち緊張でのどが渇いてきたので、私は入り口のほうのバーカウンターにビールをもらいに行き、4人分のビールを持って戻ってくると、大勢にとりかこまれたポールがホールの手前に出てきて、次々と話しかけてくるミュージシャンたちに、柔和な笑顔で、ビールを片手に持ち、早口の英語で受け答えしていました。
奥にいるみんなにビールを渡そうと思い、ポールの横をビールを持ったままかがんですり抜けようとしたら、ポールの背後のセキュリティのおっさんに、「変な方向から接近するな!」という感じで軽くはねのけられました(笑)
セキュリティのおっさんのでかい手をかわして横に動くと、ドン!と、誰かのお尻と衝突して、弾き飛ばされそうになりました。振り返ると、ジリアン・ウェルチがうしろでテーブルのケーキを取るためにかがみこんでいたのでした(笑)
取り皿には鶏肉のローストとか、ケーキとか、食べ物がいろいろ載っていて、彼女はけっこうガツガツと食べておりました。ジリアンの横に、例のクネクネ回るギタリストのデイビッドと、昨夜楽屋口で例の道具箱を持っていた、小柄で庶民的なガールフレンドがいたので、デイビッドに「彼女はキュートですね」と声をかけると、彼女は同じ庶民がいてほっとしたようなようすで「ありがとう」と。
あらためてディビッドに、「あなたの変わったギターは、レギュラースケールですか?」ときのう聞きそびれたギター談義をしかけると、
「ギブソンのパーラータイプで、レギュラースケールだけどネック・アングルが急なので、テンションが高いんだ」と、ギターマニアには聞きなれた単語で(笑)教えてくれました。
彼のギターはギブソンのL-30かな?アーチトップでバイオリンみたいなfホールの、小ぶりなギターです。こんなの。
http://homepage2.nifty.com/masame/l30all.jpg
「あなたがカポを使ってプレイしているのはそのためなんですね?」と我ながら的確な(笑)質問を返すと、彼も私をギターオタクと認めてくれたらしく、にっこり笑って大きくうなずきながら、
「そう、そう!テンションが高いから、きちんとしたカポじゃないとホールドできないんだ」
彼はSHUBBの黒いカポを使っていました。
奥へ進み、みんなにビールを渡していると、背の高い、ソバージュ(?)で金ラメのスーツのド派手な黒人女性が入ってきて、ワシントンのポールに声をかけてきました。ワシントンのポールは私をその黒人女性に紹介してくれ、彼女は「カイーシャ」と名乗りました。
あとでわかったのですが、彼女はUnder African Skyのステージに出演していたカメルーン出身の歌手でした。打ち上げに顔を出しにきたみたいです。
彼女は庶民の我々にも「日本まで気をつけて帰ってね」などと感じよく挨拶してくれました。
その間、グリズリーベアの背の高いボーカルが酔眼でポールにしばらく絡んでいましたが、ジリアン・ウェルチがすっかり空になった皿を持って通りかかると、ポールはそっちにすばやく向きを変え、それまで以上のにこやかな表情でジリアンに話しかけていました。
ジリアンもポールと話すのがうれしいらしく、赤面しながら笑顔で受け答えしています。ポールは背の高いジリアンを抱きかかえるようにして、なんかジョークを交えつつ彼女をほめそやしているらしく、周囲の人々も口々に「いいハーモニーだった」とか彼女に声をかけながら、しきりにうなづいていました。
私もポールに話しかけたかったのですが、ジリアンとあまりに盛り上がっているので、キッカケがつかめず、ポールの早口でいかにも頭のよさそうな受け答えをただ聞いていました。
奥の部屋からマークが出てきたので、「ハードな1ヵ月でしたね」とねぎらいの言葉をかけてみたのですが、彼はふらふらするぐらい酔っ払っていて、「サンキュー」とかいいながら千鳥足で踊っていました(笑)
ふと振りかえると、ポールが店を出て帰るところで、みんな最後の挨拶ラッシュにはいっていました。なんとなく付和雷同して手を振ってみたり。
ポールが数人のお付きの人々と帰ってしまうと同時に、何人かのミュージシャンも店を出て帰っていきました。すこし閑散としたホールの隅っこにバキチとビンセントが座って飲んでいて、バキチは「楽しんでいるかい?」というように親指を立ててウィンクしてくれました。
我々庶民軍団も、そろそろ帰ろうかということになり、最後にビンセントにお別れを言いにいくと、彼も結構飲んでいる様子でしたが、ニコニコしながら話してくれました。
「日本まで何時間かかるんだ?」
「フライトは12,3時間です」
挨拶していると、彼は突然合掌のポーズをとって、
「私は日本について詳しいんだ。ブッディストだから。真言宗を知っているか」
なんと彼は真言宗徒でした。
「知っていますよ、空海ですね。いつから仏教徒になったのですか?」
合掌を返しながらたずねると
「86年かな」と。どういういきさつなんでしょうかね・・・。
「いつか日本にまた来てください」とこの4日間、会話したミュージシャン全員に言い続けてきたせりふをまた言い、打ち上げ会場を後にしました。
BAMの前の交差点で、庶民ファン4人でいつの日か再会することを誓って、別れました。帰りの地下鉄で山本さんと、「夢のような夜だったねー」「まったく」と、お互いに何度も同じ感想を言い、うなずき合いました。
BAMの最寄のアトランティック通り駅から、トニー・セドラスが繰り返し勧めてくれたQ線に乗ってマンハッタンに戻り、34丁目で地下鉄を降りると、ホームには私と山本さん以外、ほとんど誰もいませんでした。
35丁目の深夜営業のマクドナルドでコーヒーを飲んで興奮を鎮めてから、山本さんと別れて、人通りのほとんどない6番街を、17丁目のホテルまで独りで歩いて帰りました。
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